大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第一小法廷 昭和48年(行ツ)41号 判決

上告人 堀節治

被上告人 浅草税務署長

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人長井清水、同藤川成郎の上告理由第一点及び第四点について。

原審の確定するところによれば、上告人はあくまで審査の請求をする旨を固執していたのであつて、再調査の請求をする意思を有しなかつたというのであるから、上告人が浅草税務署長に提出した所論書面による請求は、再調査の請求を経ることなくされた審査の請求とみるほかはなく、かかる請求が不適法なことは明らかである。東京国税局長が右書面に関してとつた措置には明確を欠くところもあり、また、同局長がした審査の請求を却下した決定の理由は首肯し難いが、そうだからといつて、右書面による請求を適法な審査の請求とみることはできない。しかして、右書面による請求が適法な審査の請求とみることができるか否かは、本件訴えの適否に関する職権調査事項であるから、被上告人の主張いかんによつて、その判断が左右されるものでないことはいうまでもない。それゆえ、原判決(その引用する第一審判決を含む。以下同じ。)には所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

同第二点及び第三点について。

さきの上告審の破棄差戻判決は、差戻前の控訴審が確定した事実関係を前提として、所論のような法律上の判断を示しているのであるが、右の事実関係は、上告審がみずから確定した事実上の判断ではないのである。したがつて、それが職権調査事項に関する場合であつても、民訴法四〇七条二項にいう事実上の判断にはあたらないから、原審が、その新たに確定した事実関係に基づき、本件訴えを不適法と判断したとしても、その判断は、右の破棄差戻判決の覇束力に触れるものではない。それゆえ、原判決には所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

同第五点について。

上告人の所論請求が不適法であつて、そのことは、東京国税局長のした審査の請求に対する却下決定の理由が所論のごときものであることによつて左右されないことは、既に判示したところから明らかであり、原審の判断がさきの上告審の判決に触れるものでないことも、既に判示したとおりである。それゆえ、原判決には所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

同第六点について。

所論の貸倒れ発生の事実が旧所得税法(昭和三七年法律第六七号による改正前の昭和二二年法律第二七号)五一条一項但書所定の「正当な事由」にあたらないことは、原審の正当に判示するとおりであり、所論のその余の事情も右の「正当な事由」にあたるものと解することはできない。それゆえ、論旨は採用することができない。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判官 岸盛一 大隅健一部 藤林益三 下田武三 岸上康夫)

上告理由書〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例